欠伸軽便鉄道通信40 ― 2025年01月12日 06:00
欠伸軽便鉄道の歩み(連載最終回)
欠伸軽便鉄道という名称は、僕が小学生のときに決めたものです。当時はHOゲージで、何度かレイアウトの製作に挑戦しましたが、いつも、完成より次のプロジェクトへ移る方が早く、当時から飽き性だったようです。
1993年頃に、3.5インチゲージのライブスチームをキットから製作し、これを狭い庭で走らせました。線路の全長は9mしかなく、しかも直線だけ。走り出したらすぐにバックしなければなりませんでした。
2000年頃に引越をして、5インチゲージで30mほどのエンドレスを庭に敷くことができました。その後も何度か引越をして、現在は全長500m以上あります。機関車も少しずつ増えて、今、40号機の設計と材料集めをしているところです。つまり39台も機関車があることになります(写真1~8)。
45mmや32mmゲージの小型の機関車になると500台近くあります。小型といっても、NゲージやHOゲージの何倍もあり、置き場所に困っています。とにかく、作ったり、手に入れたりしたものを手放したことが一度もなく、壊れたものはすぐに修理しているので、どれもすぐ動く状態にあります。
これらの機関車たちは、3つのガレージにぎりぎり収まっていますが、これ以上増えると、ガレージを増築するしかありません。庭の線路も、これ以上長くすると一人で管理することが難しくなります。ですから、次に引越をしたら、規模を縮小し、少しコンパクトにしようと考えています。引越のときに持っていけないものもあります。たとえば、コンクリートで地面に作ったターンテーブルなどがそうです。しかし、線路はすべて置いてあるだけなので、数日で撤去することができ、組立ても2週間くらいで可能でしょう。いつも、そのような変化に対応できるように考えています。
さて、これからの欠伸軽便鉄道は、どのようなものを目指すのでしょうか? 第一目標は、毎日乗って楽しめる状態を維持すること。自然の中を走ることの楽しさは、不思議なほど飽きません。
それ以外にも沢山の夢や計画があります。たとえば、人が乗れるモノレールとか、メリーゴーラウンドとか、急斜面のケーブルカーなども作りたいと考えています。でも、すべてを実現するのは少し無理かもしれません。夢も計画も、行き着くところ、「目的」が大事なのではなく、そこを目指して進む毎日、「過程」に価値があると思います。
何をするのかという具体的な「目的」ではなく、その目的を「目指す」ことが、楽しさの本質なのです。「何をするのか?」の答は、「なんでも良い」とさえいえます。庭園鉄道でなくても良いし、鉄道でなくても良いし、工作でなくても良い。ただ、なにかを「目指す」気持ちを持ち続けて、日々の時間を大事に使いましょう。一歩一歩、夢に向かって前進することが楽しいのです。
写真1 2号機AB10と12号機AB20の重連: この2両の電気機関車のボディはボール紙製。欠伸軽便鉄道の代表的なデザイン。20年以上経過しているが、今も現役。
写真2 33号機AD67: 4軸全輪駆動の強力な機関車。やはりボディはボール紙製。新幹線と同じ音色のホーンを鳴らすことができる。
写真3 29号機レールバス: イギリスの老人から譲り受けた機関車で、7.25インチゲージだったものを5インチゲージに改軌。ボディは木製。沢山の人形が乗っている。
写真4 28号機ホィットコム: 友人が設計した機関車で、レーザカットされた鋼板を譲ってもらって製作。7.5インチゲージのサイズ。キャブの屋根を高く変更している。
写真5 20号機シェイ: 友人が設計、製作をしたライブスチーム。アメリカの森林鉄道のスケールモデルだが、ピンク色に塗られているのは世界唯一。燃料は木炭。
写真6 27号機木曽ボールドウィン: 友人が設計したライブスチーム。木曽森林鉄道の1/6スケールモデル。ボイラは、日本のメーカ、OS製。石炭が燃料。
写真7 30号機ジェット: ラジコン飛行機用のジェットエンジンを搭載。燃料は灯油。後方に噴射して推進する。スピードはブレーキでコントロールする。爆音が轟くので、普通の場所では近所迷惑になるだろう。
写真8 ジャイロモノレール9号機: 2つのジャイロを搭載し、1本のレールの上をバランスを取りながら走行する。100年まえにイギリスで発明されたメカニズムの世界的にも珍しい鉄道模型。
ごきげんよう、またいつか……:
40カ月のご愛読に感謝いたします。欠伸軽便鉄道は、まだしばらく運行します
(つづきは、欠伸軽便鉄道のブログで http://akubilr.asablo.jp/blog/)
欠伸軽便鉄道通信39 ― 2024年12月29日 06:00
庭園鉄道とコンピュータ(連載第39回)
庭園鉄道に限らず、工作を楽しむ上でコンピュータの利用は、今では普通のことになりました。コンピュータは、道具(あるいは工具)の一つといえます。非常に便利で応用範囲の広い道具です(図1)。さらに、最近では安価なマイコンも普及していて、ちょっとした場面で利用できる「部品」の一つにもなりました(写真1、2)。この連載でも、自動運転や信号機の制御、あるいはジャイロモノレールなどでコンピュータを利用していることを紹介しました(図2、3、写真3)。
僕は、若い頃から仕事でコンピュータを活用し、それこそプログラミングに明け暮れる毎日を過ごしました。その反動で、趣味の時間くらいはコンピュータを見たくない、と思うほどです。当時は、コンピュータ言語をマスタしないと使えませんでしたが、今では誰でも簡単にプログラムが組める環境も整いました。「コンピュータを使って」などといわなくても良いほど、ごく普通の技術となっています。
庭園鉄道へのコンピュータ利用には、CADや3Dプリンタなどを活用した工作(あるいは工事)と、マイコンなどを使った自動制御という2つの方向性があります。残念ながら、前者については欠伸軽便鉄道は遅れています。もうしばらく手作業を楽しもうかな、と意図的に控えているためです。後者のマイコン利用でも、今のところごく簡単な動作にしか使っていません。複雑な処理を行い、全自動化するところまでは時間がかかりそうです。
今では、ラジコン飛行機も完全な自動制御で飛行が可能となりました。鉄道は、最も自動化に適した乗り物ですから、鉄道模型はもっと自動制御が浸透しても良さそうですが、雑誌などを見ている範囲では、それほど普及はしていません。自動運転では楽しくない、と感じる人が多いからでしょうか。趣味のものですから、もちろん各自が自由に、自分が楽しめるものを求めるのが良いと思います(図4、5、写真4)。
コンピュータがない時代でも、機械的なスイッチによってリレィを作動させ、かなり複雑な動作まで自動化することができました。コンピュータも、センサからの入力に対して、あらかじめ設定された出力を行う点では同じです。ただ、その動作の調整をしたり、新たな機能を加えて拡張したりする場合に、プログラムを少し変更するだけで簡単に対応できる点が、コンピュータの長所です。一言でいうと、コンピュータを使うのは、その方が「簡単」だからです。
難しい方が楽しめるという趣味人も大勢いますので、使わなければならないものではりません。あくまでも一つの「道具」なのです。
写真1 ラズベリィ・パイ:ラズベリィ・パイは、通信もでき、モニタやキーボードも使えるパソコンの一種。本格的なプログラミングが楽しめる。
写真2 アルディーノ:アルディーノは小さいし安価なので、プログラムを覚えさせ、個々の模型に搭載して機能させるのに向いているマイコン。
写真3 ラズベリィパイを搭載したジャイロモノレール:1本のレールの上をバランスを取って走るモノレール。サーボ制御のために搭載したラズベリィパイは、微妙な調整を数値で行い、各種条件を数値化できる再現性のために採用した。
写真4 HOゲージのコントローラ: 現在製作中のHOゲージのレイアウトのコントローラ。車両の走行、各種サウンド、ポイント、信号、ターンテーブルなどを制御することができる。
追伸 ヒノキクラフトのモ510の進捗: ボディと走行装置は完成して、試運転も行った。今後、車内のディテールを加える予定。45mmゲージ、1/22.5スケール。
図1 コンピュータの仕事: 各種センサからのインプットを処理するプログラムを作り、処理結果をアウトプットすることで動作する。コンピュータの仕事は、あらかじめ決められた処理を精確に行うこと。
図2 自動運転の例: コンピュータを車両に搭載すれば、カメラや超音波センサなどのインプット情報によって判断し、モータやブレーキを適切に操作することができる。ハンドルのない鉄道では、自動車の自動運転よりも実現が簡単。
図3 信号機やポイントの制御: 車両の位置や速度をセンサで感知し、その情報を処理して信号やポイントをコンピュータが作動させる。庭園鉄道システムの自動化にコンピュータが利用できる。
図4 鉄道模型のデジタル化: デジタル・コマンド・コントロールと呼ばれる方式。線路を通じてコントローラからデジタル信号を送り、個々の車両やポイントを操作する。車両やポイントには信号を受信するデコーダが組み込まれている。線路には常に一定の電圧がかかっていて、電力を使用してデコーダがモータ、スピーカ、ライトなどを作動させる。
図5 スマホでコントロール: 鉄道模型をスマホでコントロールする製品が既に登場している。車両に搭載したカメラの映像をスマホのモニタで見ながら運転できるので、小さいサイズでも乗っている気分が味わえる。さらに、これを応用すれば、遠く離れた場所の模型をインターネットを通じて楽しめる。
欠伸軽便鉄道通信38 ― 2024年12月15日 06:00
庭園外鉄道(連載第38回)
庭園鉄道には庭園が必要です。でも、庭園がない家に住んでいる人も、庭園外鉄道なら実現できます。それはつまり屋内鉄道です。鉄道が屋内にあることは不自然ですが、多くの鉄道模型は室内にあるのです。この点を不思議に思ったことはありませんか?
日本は雨が多く湿度が高いため、庭園鉄道には不向だといわれています。特に、サイズが小さい模型の場合、線路の走行状態を維持することが面倒になります。一方、室内で走らせる場合には、スペースの問題が大きくなるでしょう。このため、天井裏を利用したり、部屋の壁にそわせて高い位置にレールを据え付けるなどの工夫がされてきました(図1)。
さらにサイズが大きい乗用鉄道では、室内で楽しむという発想はかなり非常識かもしれません。しかし、既に説明したとおり、軽便鉄道(ナローゲージ)ならば、たとえば5インチゲージでもカーブの半径を1mくらいまで小さくでき、半径2mもあれば、連結した列車を無理なく運行できます。普段は少々邪魔になりますが、線路は敷きっぱなしでも、踏んで壊れるようなことはありません(躓かないように注意が必要ですが)。家の中で、鉄道に乗って運転するなんて、楽しそうですね。
これは、ショッピングモールなどにある子供向け鉄道に似ています。あの楽しさを大人になっても味わいたい人は、自宅を室内遊園地にすることをおすすめします。メリーゴーラウンドやコーヒーカップも少し小さくして(つまり模型で)作ると面白いでしょう。最近では、ジェットコースターを自作した人の話を幾つか聞きます。ディズニーランドの生みの親であるウォールト・ディズニーも、自宅に庭園鉄道を作っていました。そちらの方が遊園地よりさきだったということです。
理想的なのは、室内と室外(庭園や屋上)の線路を結び、列車が出入りできるようにすることでしょう(図2、3、写真1~3)。室内に線路を引き込めば、良い環境で車両の製作や修理、メンテナンスを行うことができます。車内に人が乗れる大型車両ならば、室内の駅で乗り込み、外へ出ていくこともできます。こうすれば雨天の運行も可能でしょう。また、室内で地下鉄のミニチュア鉄道を作るのも面白いかもしれません(図4)。
庭園鉄道は、いろいろなサイズの模型で楽しめますし、また場所も「庭園」だけに限らず楽しめる趣味だといえます。
写真1 ガレージに引き込まれた線路: ドアの下の隙間を塞ぐスポンジ付き木材を嵌め込んで、風や虫の侵入を防いでいる。写真はそれを取り外した状態。
写真2 ガレージの中にも引込み線がある: 蒸気機関車の下に入って修理をするピットもある。また、この右へぐるりと一周できるエンドレスが設置されている。
写真3 ガレージ内のエンドレス線: 中壁の周囲を巡っている。カーブの半径は2~3m。外に出られない日も室内で運転ができる。写真は1/6スケールの木曽森林ボールドウィン。
追伸 ヒノキクラフトのモ510を製作中: 昨年のデキ3と同じ方が製作されたキットに取り組んでいる。名鉄で走っていた有名な電車の1/22.5スケール。
図1 室内でも大型鉄道模型を楽しめる: 天井に近い高さで部屋の周囲に線路を設置すれば、生活の邪魔にならない。鴨居レイアウトと呼ばれる。
図2 典型的な庭園鉄道のスタイル:ガーデンハウス(シェド)の中に引込み線があり、普段はここに車両をストックする。45mmか32mmゲージの庭園鉄道に多いタイプ。
図3 生活に役立つ庭園鉄道?: 普段はエンドレスをぐるぐる回って運転をする。冬は毎日必要な薪(重いし大量に必要)を運ぶため線路を家の中まで引き込む例。
図4 地下鉄の乗用鉄道模型はいかが?: 図1とは逆の発想。床を1mほど高く二重に設置し、下部に5インチゲージで地下鉄を再現する。暗いからトンネルの雰囲気が出るのでは?
欠伸軽便鉄道通信37 ― 2024年12月01日 06:00
庭園鉄道の安全性(連載第37回)
庭園鉄道は個人の趣味ですから、自分が楽しむためにあるといえます。しかし、普通の模型よりも大きいため、不注意によって生じる事故も大きくなる危険があります。楽しさも大事ですが、なによりも安全であることが一番優先されます。
5インチゲージの機関車は、100kg近くの重量があり、人とぶつかれば重大な事故になります。たとえば、小さい子供の場合は大怪我をする可能性も高く、取り返しがつかない事態になるかもしれません。車輪とレールの間に手や足を挟めば、切断する危険もあります。近くに子供がいないことを常に確認しましょう(図1)。
このサイズのミニチュア鉄道が一般の人を乗せているイベントを見かけますが、有料、無料に関係なく、原則としては違法になる可能性があり、事故が起こった場合の責任を問われます。運転する人以外に、乗客の安全を常に確認できるスタッフが必要でしょう。
欠伸軽便鉄道では、一般の乗客をお断りしています。たとえ希望があった場合でも、子供は乗せません。「頼まれたから」というのは理由にならないからです。海外では、ミニチュア鉄道の脱線事故による死者が出た例があります。
このほか、ライブスチームであれば、高温、高圧のボイラが危険です。万が一の事故に備えて定期的な点検が義務づけられています(写真1、2)。エンジンで走る機関車はガソリンを(写真3)、また小さなライブスチームはアルコールを燃料としています。これらは非常に引火しやすい物質ですから、充分に気をつけて下さい。特に、アルコールは屋外では炎が見えません。気がついたときには燃え広がっている場合があります。
電気機関車にも危険が潜んでいます。12Vのバッテリィを搭載していますが、配線がショートした場合、たちまちコードは焼けて融解し、発火する可能性があります。バッテリィからの配線には、必ずヒューズやブレーカと取り付けて下さい(写真4)。
これらは、いずれも大きさゆえの危険といえます。ボイラも燃料もバッテリィも、重量物を動かすだけの大きなエネルギィを持っているのです(図2)。
また、庭園鉄道の工事でも、同じことがいえます。土を掘ったり、重量物を持ち上げる機会には、怪我をしないように注意して下さい。特に、一人だけで工事を行うことが多いので、怪我をしたときに助けてもらえません。充分に気をつけましょう(図3)。
欠伸軽便鉄道では、線路上にいた蛇が機関車の車軸にからみついて脱線したことがありました。蛇は怪我をしたようですが、こちらを睨んでいたので、怖くて近づけず、しばらく放置するしかありませんでした。30分ほどあとに見にいくと姿がなく、どこかへ行ってしまいました。大怪我ではなかったようで、ほっとしました。
写真1 蒸気機関車の圧力計: 蒸気を作るボイラ内は、大気の5倍くらい高圧になる。5インチゲージでも45mmゲージでも、ライブスチームには圧力計が装備されている。
写真2 蒸気機関車の安全弁: ボイラの圧力が想定を超えた場合には、安全弁から蒸気を外に放出し、圧力増加を防ぐ仕組みになっている。安全弁は2つ装備されることが多い。
写真3 エンジン駆動の機関車のガソリンタンク: 38号機ではキャブ内の天井近くに設置されている。ガソリンは引火性が強く、近くに火の気がないことを確認すること。また、万が一の場合に火を消す方法を考えておくこと。
写真4 ショートを防ぐブレーカ: 電気機関車に使われる12Vのバッテリィは、感電の心配はない。しかし、ショートさせると発火する危険がある。過電流を検知して電流を遮断するブレーカかヒューズを必ず取り付けること。
追伸 HOゲージのレイアウトは工事中: 架線を張り、デジタルでコントロールしている。過去にGゲージでデジタル運転を楽しんでいたが、部品が小さくなり、今ではHOやNゲージでもデジタルが普及している。
図1 機関車は急に停まらない!: 5インチゲージクラスの機関車は重量があるため、人の力では簡単に停まらない。事故があった場合、運転している者に全責任がある。人が近くにいるときは要注意。
図2 危険とその備え: 蒸気機関車は高熱と高圧に注意。エンジン機関車は燃料が火気厳禁。電気機関車はバッテリィのショートが危険。このうち最も怖いのは、普通は安全そうに見える電気機関車。
図3 楽しさを支えている基本精神: 楽しい運行、工事、工作などは、どこかで他者に迷惑をかけている可能性がある。常にそういった配慮をすることが安心・安全の基本。
欠伸軽便鉄道通信36 ― 2024年11月17日 06:00
フリーランスの素晴らしさ(連載第36回)
皆さんは、「模型」といえば、実物を縮尺して精確に再現するミニチュアだ、とお考えだと思います。もちろん、「いかに実物どおりか」は模型の一つの目標です。でも、それがすべてではありません。
たとえば文章は、かつては事実を詳細に伝えることが目的でしたが、今ではフィクションとしての価値も認められています。絵画や彫刻なども、昔は実物をどこまで精確に描写できるかが目標だったようですが、今ではモデルとなる実物が存在しないものも自由に作り出されています。模型もこれと同じで、実在しないものを模型として作り出す「創作モデル」が、一つのジャンルとして確立しています。
日本では、実物の再現性に拘るスケールモデルが主流です。「実物のようだ」が最大の賛辞であり、精確さを競う傾向にあります。しかし、模型の歴史が古いヨーロッパなどでは、スケールモデルではないフリーランス(自由型)の模型が高く評価されていて、「模型はフリーランスに始まり、フリーランスに行き着く」といわれるほどです。初心者は(製作が簡単な)フリーランスから入門し、技術が向上して緻密なスケールモデルを作るベテランとなっても、再びフリーランスを作りたくなる、という意味です。
鉄道模型では、フリーランスを見かける機会は(特に日本では)少ないかもしれません。たとえば、製品として売られている模型のほとんどは、実車が存在するか、かつて存在したものです。スケールモデル派は、「自由に作れといわれても、何を目標にすれば良いのかわからない」というかもしれません。
その「目標」までも、すべてを自分で考えて作る模型、それがフリーランスです。適当に「なんでもあり」なのではなく、自分の世界を創造し、その架空世界に存在するはずの「実物」をリアルに作り上げるのです。これは、具体的な目標のあるスケールモデルよりも、むしろ難しい行為ともいえます。「模型の最高峰はフリーランスである」ともいわれているのはこのためです。
スケールモデルを作っているときでも、「自分なら、ここはこうしたい」と思う場合があります。そんなときに、実物に忠実であることに拘らず、自分の理想のとおりに作る姿勢があっても良いはずです。実物と違っているのなら、どうして違っているのかという理由が必要ですが、それを考える楽しさが生まれます。
庭園鉄道でも、室内のHOゲージやNゲージのレイアウトでも、それを作る人が生み出した「世界感」があるはずです。自分の考えに素直に従って作れば、きっと世界にただ一つの価値が生まれることでしょう。
写真1 イギリスのレジンキットから作った蒸気機関車: 32mmゲージだが、スケールは1/12くらい大きい。下周りを自作して電動化。
写真2 イギリスの16mmスケールのクラブで賞を取った作品:蒸気機関車ハイスラ型だが、未来的な(?)デザイン。友人からのいただきもの。
写真3 16mmスケールのライブスチーム:ドイツ製のフリーランス模型を大幅に改造したもの。ガスを燃料にして走る。32mmゲージ。
写真4 シングルドライバ(動輪1軸)のライブスチーム:市販の首振りエンジンを使った自作品。名前のスペルは最後の1文字がわざと変えてある。45mmゲージ。
写真5 望遠鏡を載せた天体観測車(?):アメリカの製品。金属製で高価な完成品。芸術的な価値が高いということらしい。このような模型が製品になることが素晴らしい。
写真6 ガラスドームから顔を出せるカブース: 写真2と同じ作者のもの。最後尾から列車を確認するための車掌車。たしかに、見晴らしは良さそう。
追伸 HOゲージのレイアウトを製作中: HOゲージでレイアウトを作るのは30年振りくらい。大きさは130cmx440cmで、架線集電。ドイツのメルクリンと、イギリスのホーンビィのデジタルを試している。
図1 1軸列車: 1軸にすれば、どんな急カーブでも曲がることができる。ただし、1両だけでは走れない。連結して列車になることが前提。
図2 モノレール: レールが1本だから、線路の工事が簡単。ジェットエンジンで推進するらしい。運転手はゆるキャラ?
欠伸軽便鉄道通信35 ― 2024年11月03日 06:00
ナローゲージの魅力(連載第35回)
ナローゲージとは、線路の幅が狭い鉄道のことで、いわゆる軽便鉄道です。実は日本の鉄道の多くは、世界のスタンダードゲージより線路が狭く、JR在来線などもナローゲージになります(新幹線はスタンダードゲージ)。前回スケールの話をしましたが、模型で同じゲージの線路を走らせようとすると、実物では小型のナローゲージの車両が、逆に大きくなってしまう、という逆転現象が生じます(図1)。
大きめの方が細かい工作がしやすい、というメリットもありますが、とにかく小さい機関車が大好きだ、ずんぐりとした可愛いらしい車両を愛してやまない、というナローゲージファンは意外に多く、ヨーロッパやアメリカでは、ナローゲージ専門の模型雑誌が数多く発行されています。日本でも最近になって、ナローゲージの鉄道模型の製品が増えてきたようです。
人間も動物も、赤ちゃんは可愛いいものです。また、よく見かけるゆるキャラも、頭でっかちで、ずんぐりしています。ナローゲージの車両は、普通の鉄道車両に比べて短く、レールの幅のわりに人が乗るキャブが大きくなるため、頭でっかちのスタイルになります。このアンバランスさが可愛らしく見える、つまり、赤ちゃんのように可愛く感じる本能が、人間には(動物もですが)あるということでしょう(図2)。
ナローゲージは、主に工事現場、森林、炭鉱、工場といった場所で活躍しました。線路を手っ取り早く敷いて走らせることができたからです。この点でも、庭園鉄道と共通する要素がありそうです。一番のメリットは、急カーブが通過できること。たとえば、人が乗って楽しむ5インチゲージでも、小型の車両なら半径1mといった急カーブを通過できます。これは、HOゲージと同じくらいのカーブです。3畳間くらいの部屋で、5インチゲージを運転して遊べることになります。
コミカルで可愛らしいプロポーションが、ナローゲージの魅力でしょう(図3、写真1~3)。車両に合わせて、頭でっかちのフィギュアやぬいぐるみを乗せても似合います(写真4)。子供っぽいといわれるかもしれませんが、子供っぽいことは、全然悪いことではありません。大人になっても子供っぽいままでいられるなら、幸せではありませんか? もちろん、ナローゲージでも、実車を精確にスケールダウンした本格的な模型もあります。
その存在自体がファンタジィで、絵本の世界から抜け出してきたような雰囲気を持っているナローゲージは、多くのファンを魅了しています。
写真1 45mmゲージのライブスチーム: 小型の機関車であることが、人形との対比でわかる。7/8インチスケール(実物の1/13.7スケール)の自作品。
写真2 欠伸軽便鉄道で一番ナローっぽい機関車: 内部に人が乗って運転する30号機。ジェットエンジンで推進する特殊車両。ボディはベニヤ製。
写真3 ナローゲージは貨車も可愛い: 幅や高さに対して車長が短いので、おもちゃのようなプロポーションになる。連結して走ると、後方からの音も楽しい。
写真4 頭でっかちの人形が似合うナローゲージ: この人形は、頭は1/3で躰が1/6スケール? 漫画のようなプロポーションがナローゲージによく似合う。
追伸 木材の運搬をする車両: 一昨年の風で折れた樹を、最近チェーンソーで切断した。これを薪割り場へ運ぶために運材列車が出動。
図1 模型になるとサイズが逆転: 同じ線路で走らせようとすると、ナローゲージの方が大きくなる。クラブなどで線路を共有する場合、このような不思議な光景に出会える。
図2 赤ちゃんの方がかわいい!: 太短いものが可愛く見えるのは、本能的な感性だろうか。ナローゲージにはコミカルな魅力がある。
図3 ゆっくりのんびり走るナローゲージ: ゆらゆらと揺れながらのんびり走る様は、なんとなくスローライフに通じるものがあり、多くの人たちが癒されるだろう。
欠伸軽便鉄道通信34 ― 2024年10月20日 06:00
スケールをいくつにするか問題(連載第34回)
これまで何度も使ってきた「スケール」という言葉ですが、日本ではこれを「縮尺」と訳していて、通常は「実物との比率」と解釈されています。12分の1とか48分の1などの分数がスケールだと理解している人が多いでしょう。
ところが、欧米では違います。たとえば、実物の1フィート(30.48cm)を何インチ(1インチは2.54mm)に縮小するのか、が「スケール」になります。地図や設計図の多くは、実物を縮小して描かれますが、そこには「この長さが1フィートです」という目盛が添えられています。これが、スケールなのです。
欠伸軽便鉄道は5インチゲージです。このサイズは通常「1インチスケール」と呼ばれていて、1フィートを1インチ(12分の1の縮尺)で作る模型という意味になります。このほかにも、イギリスの庭園鉄道でメジャな「16mmスケール」は、1フィートを16mmで作る縮尺なので、304.8÷16で、分数でいうと19.05分の1スケールになります。
国によって微妙に異なりますが、16.5mmゲージのHOゲージは、3.5mmスケール(87分の1に相当)、32mmゲージのOゲージは、7mmスケール、45mmゲージの1番ゲージは、10mmスケールです。縮尺率の分数が、50分の1や100分の1など、キリの良い数字にはならず、半端な数字になるのは、12進法だったり、長さの単位が異なることが理由です。(図1~4)
さて、自分の庭園鉄道を建設するときには、スケールをだいたい決めておく必要があるでしょう。車両だけでなく、鉄道に関係する建物や人形などは、スケールが揃っている方が自然です。ただし、実物の鉄道にはさまざまなゲージが存在し、これを模型にする場合、同じ線路で走らせることを優先すると、結果的にスケールが統一できません。(写真1、2)
欠伸軽便鉄道でも、実物を想定して車両を作りますが、5インチゲージの線路を使うためには、スケールに6分の1から4分の1と、幅を持たせる必要がありました。運転士の人形を機関車に乗せる場合、各車両によって大きさの違う人形になります。
さらに、鉄道の周辺機器(信号機、踏切など)あるいは建物(駅など)のサイズをどうするのか、という問題もあります。鉄道の縮尺に合わせてトンネルを作ると、人間が乗ったまま通り抜けることができなくなります。信号機などは少し大きめに作った方が丈夫でメンテナンスも楽になるでしょう。かといって、山や川は、実物よりずっと小さいものしか作れません。
自分の鉄道ですから、それぞれが自由に決めれば良いことです。だいたいの縮尺を決め、あとはバランスを考えつつ、ある程度大まかに考える、というのが僕の方針です。
写真1 Oゲージと7/8インチスケールの車両の比較: どちらも32mmゲージの線路を走るが、左は45分の1スケール、右は7/8インチスケール(約13分の1)。縮尺率は約3倍も違う(実車は左のレールカーの方が右の機関車よりずっと大きい)。
写真2 45mmゲージの日本の蒸気機関車: この機関車は30分の1スケール。実車は1067mmゲージなので35.6mmゲージになるはずだが、多く普及している45mmゲージに合わせて車輪周辺を幅広くして作られている。
追伸 完成した39号機: 塗装が終わってほぼ完成。4サイクルガソリンエンジン機関車。
図1 時間を縮小して早回しにするときのスケール: 年、日、時間、分などが10進法ではないため、分数にすると半端な数になってしまう。この場合は、1年を何時間にするかを示す方が簡単。
図2 引算と割算をする国としない国: おつりを渡すときに日本では引算をするが、欧米では足算して(客が出した金額と品物+おつりが)同じ値段になるようにおつりを出す。縮小するときも、割算でなく、掛算で考えるためにスケールが設定されている。
図3 図面や地図に用いるスケール(定規): 実物のある単位が、図面ではこの長さになっている、と示すものがスケール。この定規があれば、何分の1なのか縮尺率を考えなくても良い。
図4 線路のゲージで縮小率を決めると: 自分の持っている線路で走らせるためには、実物の線路と自分の線路のゲージの比が縮小率になる。結果として、同じ線路でさまざまなスケールの模型が走ることになる。実機では小さい車両が模型では逆に大きくなる場合もある。
欠伸軽便鉄道通信33 ― 2024年10月06日 06:00
どのゲージにするか問題(連載第33回)
「ゲージ」とは、左右のレール間の距離のことで、日本語では「軌間」といいます。レールの中心間距離ではなく、内のりです。鉄道模型は、ゲージによって車両のだいたいのサイズが決まります。日本で最も多くの人が楽しんでいるNゲージは9mmゲージで、これよりひとまわり大きいHOゲージは、16.5mmゲージです。
庭園鉄道で人が乗って運転を楽しむサイズは、3.5インチ(89mm)か5インチ(127mm)か7.5インチ(190.5mm)ゲージが一般的です(ただし、5インチクラスはアメリカでは4.75インチが多く、7.5インチクラスはイギリスでは7.25インチが大半になり、国によって微妙に違う)。ゲージが異なると、その線路を走らせることができません。車輪や車軸は、線路のゲージに適合するように作られています。大型の模型では簡単にゲージを変更することは困難です。
庭園鉄道として屋外で楽しむ32mmゲージや45mmゲージの場合は、車輪を少しずらして車軸に固定し直すことで、ゲージの違う線路に対応できるものがありますが、ごく一部といえます。
したがって、自分の鉄道を建設するときに一番考えなければならないのは、どのゲージにするのか、という問題です。そのゲージで車両が増えると、別のゲージに変更することが難しくなります。不自由なことですが、実物はもちろん模型でも、これが鉄道の宿命といっても良いでしょう(図1、写真1~4)。
自分だけで楽しむなら、ゲージは自由に決められます。半端な数ではなく、5cmとか10cmでも良いわけです。しかし、友達と一緒に走らせたり、どこかの運転場へ自分の車両を持ち込んで走らせるなら、既に普及しているゲージにした方が断然有利ですし、既製品の各種のパーツも利用できます。
どんな種類の車両を走らせたいかによっても、選ぶゲージが違ってきます。実機が大型で長い編成を楽しみたいのなら、模型はできるだけ小さい方が有利で、ゲージも1ランク小さくすると良いでしょう。逆に、小型の車両が好きな人は、模型は大きく作って楽しむことができます。大きいほど工作は簡単ですし、大きいからといって、比例して費用がかかるわけでもありません。小型機は小回りが利くものが多く、ゲージが大きくても、結果的に狭い場所で走らせることができます(図2)。
実物そっくりの模型(スケールモデル)を作りたい人は、ゲージが決定すると縮尺が決まり、実物のゲージと模型のゲージの比が、スケールダウンする縮尺率となります。作りたい模型がどれくらいの大きさになるのか、想像してみましょう。
図1 鉄道模型の主なゲージ: 小さい模型は室内で楽しむのが一般的。屋外に線路を敷く場合は、ある程度の大きさが必要。さらに大きいものでは、自分が乗って運転を楽しむことができる。
図2 大型機か小型機か、どちらが好き?: 走らせたい車両によって製作するサイズ、取扱い方法が違ってくる。大型機や長編成が好みなら小さいスケールに、小型機なら大きいスケールで楽しむのが一般的。
写真1 ゲージが大きい方が小さい場合もある: 写真の左は45mmゲージの1番スケール(32分の1スケール)。右は32mmゲージの16mmスケール(イギリスで多い19分の1スケール)。このように、ゲージの大きさと模型の大きさが逆転することもある。
写真2 運転して楽しめるサイズの機関車: 左は5インチゲージ、右は3.5インチゲージ。左は欠伸軽便最新の38号機のコッペル。右は、記念すべき最初のライブスチームで、OS社製のクラウス(キットで製作)。
写真3 同じ5インチゲージでもサイズは違う:左のハイスラは12分の1スケール。右のジャックは4分の1スケール。実機のゲージが違うため、同じ線路に乗るように縮尺すると大きさが逆転してしまう(実機のジャックは非常に小型)。
写真4 左のレールカーは、人が車内に乗り込んで運転できるサイズで製作した。5インチゲージとしては限界に近い大きさ。
追伸: 製作中の39号機。ボディがほぼ完成して、これから塗装を行う予定。
欠伸軽便鉄道通信32 ― 2024年09月22日 06:00
初歩の金属工作(連載第32回)
庭園鉄道の建設や機関車を自作するためには、ある程度の金属工作が必要です。今回は、初歩の金属工作と主な工具について話しましょう。
紙や木材の工作では、ナイフやノコギリで切って、ボンドや釘で組み立てます。紙や木材は手軽に加工できますが、大きな力を支持できないことや、耐久性にも問題があります。金属は強度が高く、湿気などで変形せず、特に動力関係では不可欠な材料です。多くの機械類は、鉄やアルミなどの金属で作られています。
金属の工作も、ノコギリで切り、接着剤で接合できます。しかし、手軽で強度の高い接合は、ボルトとナットを用いる方法です。そのために穴をあける必要があり、ドリルが大事な工具となります。
材料を切るまえに、設計に従って正確に測らなければなりません。金属製のものさしか、さらに精密な測定が可能なノギスが、工作の必須アイテムです。
切る道具は、金鋸か糸鋸が手軽です。穴をあける道具は、是非ボール盤を手に入れて下さい(小型なら1万円以下で購入可能)。手で持って使うハンドドリルとの違いは、回転力ではなく、ドリルの刃を押しつける圧力が大きいことで、切削能力が格段に高くなります。
整形するときにヤスリを多用するのも金属工作の特徴です。ヤスリや金鋸を使う切削作業では、材料を万力でしっかり固定する必要があり、手で押さえて削ったり切ったりすることは非効率です。さらにその万力も、丈夫な台に固定されていると理想的です。勉強机や食事のテーブルくらいでは剛性が不足し、よく切れません。重くて揺れない工作台があると、切るときも削るときも気持ち良く作業ができます(図1)。
工作に必要なものだけを買い揃えていくうちに、道具は充実してくるはずです。もちろん、ドライバやペンチ、あるいはスパナ、レンチなどの工具も欲しくなるでしょう。安価なもので充分ですが、高い道具ほど長持ちする傾向にあり、子供の頃に買ってもらった高価な工具が、今でも現役で使える例も多々あります(写真1~3)。
5インチゲージの蒸気機関車を自作しようとすると、さらに高価な旋盤やフライス盤といった工作機器が必要になります。また、銀ローづけに使うガスバーナ、あるいは溶接機などもあると便利です。これらは工場で見かけるような設備といえますが、マンションの一室で旋盤を使っている人もいます。作りたいものがあれば、どこでも、いつでも始められるはずです。
図1 工作の道具いろいろ: はかる、切る、けずる、つける、穴をあける、つかむといった機能がある。左が初歩、右へいくほど大掛かりで高価な工具。なお、金属工作は、破片や火花が飛ぶ場合があるので、安全な服装で行うこと。ボール盤など、手袋をしている方が危険なものもあるので注意。
写真1 ドライバ類の引出し: ドライバやナット回しだけでも200本以上ある。これでも、まだ不足していると感じるくらい。
写真2 ペンチ類の引出し: つかむもの(ペンチ)と切る(ニッパ)ものがある。大きさも様々。限られた用途のためだけのものも多い。
写真3 スパナ類の引出し: 掴む幅が自由に変えられるモンキーレンチや、六角のボルトやナットに使うスパナなど。国の違いでセンチとインチの規格が異なる。
近況: ガソリンエンジンで動く小型機関車を製作中。金属工作でボール盤が活躍している。あと1カ月くらいで完成し、39号機となる予定。
欠伸軽便鉄道通信31 ― 2024年09月08日 06:00
トンネルの作り方(連載第31回)
トンネルは、日本語では隧道(すいどう)といいます。山を避けると遠回りになる場合、しかたなく土や岩を掘ってトンネルを作ります。鉄道模型では、まったくこの逆で、線路を覆い隠すため、わざわざ山を作ります。とても贅沢な話です。
庭園鉄道は、大部分が自然の地形を利用します。でも、トンネルを掘るような工事は、世界中の庭園鉄道でも例がないと思います。高い土地に線路を通すときには、溝を掘って切り通しにします。その上に天板をのせて土を被せればトンネルになります。
しかし、両サイドの土が崩れる心配があるため、充分な大きさの鉄管やコンクリート管を埋めて、その中に線路を通す方法が一般的です。強度的にも、これなら安心です。
トンネルが直線の場合は、これで解決しますが、カーブしたトンネルが欲しい場合があります。ミニチュアの鉄道では実物のように長いトンネルは難しく、線路が真っ直ぐだと、トンネルに入るまえから出口が見えてしまいます。その点、カーブのトンネルなら、真っ暗な中に入っていく醍醐味が味わえるでしょう。
カーブのトンネルを作るときは、既製品の管だけでは不足で、現場でこれらの加工が必要です。鉄管なら切断や溶接、コンクリート管では、型枠、鉄筋の配置、コンクリート打設などの作業を伴います。
欠伸軽便鉄道のトンネルは、大きなU字溝(内のりの高さと幅は1.2m)を下向きに置いて作りました。カーブ外側にできる隙間には、型枠を置き、鉄筋を配置して、コンクリートを打設しました。U字溝を3つ使いましたがが、何トンもある重量物ですから、運んできてもらい、クレーンで置くところまで建設業者に依頼しました(図1)。
ところで、トンネルの壁をブロックで自作すると、土圧で内側に倒れたり、天板が崩れたりする危険があります(図2)。また、木造では土圧や水を止めることが難しく、作ったときは持ち堪えても、いずれ腐って崩れます。自作をする場合には、土を被せない方が良いでしょう。中を通っているときは同じですから。
トンネルには、トンネルポータルが付きものです。両方の出入口、つまり2箇所に作ることができます。欠伸軽便鉄道は、いずれもレンガを積んで作りました。軽便鉄道にしては立派すぎます(図3、4、写真1~5)。森林鉄道にあるような木造のポータルも良い雰囲気になることでしょう。
写真1 U字溝コンクリートを置き、土を半分ほど盛りつけた。
写真2 レンガを積み、壁を両側に作っている途中。
写真3 半円形の木枠をセットした。レンガの穴に通す鉄筋が見える。
写真4 木枠の周囲にレンガを積み終わった。このあと、木枠を下へ外す。
写真5 完成したトンネルポータル。トンネルの穴の高さと幅はいずれも1.2m。
追伸 7年かかって完成した38号機。ドイツの機関車コッペルの1/6スケールモデル。
図1 欠伸軽便鉄道のトンネル工事: U字溝(コンクリート製品)を並べ、カーブで開いた隙間をコンクリートでつないでから、土を盛りつけて山を作った。つなぎ部分のコンクリートには鉄筋を入れる。
図2 ブロックを積む方法は危険: 両サイドにブロックの壁を作り、上に天板をのせるよう構造では、土を盛りつけると、土圧でブロックの壁が崩れる危険性がある。土を盛ることを諦めた方が良い。
図3 トンネルポータルのレンガ積み: 上部のアーチの部分は、木枠を仮にセットして、レンガを積む。念の為にレンガに穴をあけ、鉄筋を通す。完成したら、木枠を解体する。
図4 レンガ壁の倒壊防止策: 土圧による倒壊を防ぐため、手前に支持壁を作るか、内側に鉄筋とコンクリートでアンカー構造を作る。土に埋めるまえに鉄筋は錆びないようにコンクリートで覆うこと。
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