欠伸軽便鉄道通信 12023年07月16日 06:00

庭に線路があるミニチュア庭園鉄道(連載第1回)

 庭園鉄道というものを知っていますか?
 日本ではあまり見かけませんが、アメリカやイギリスでは「ガーデン・レイルウェイ」としてよく知られている趣味です。公園に走っている小さな鉄道という場合か、もう少し小さくて、鉄道模型の一分野ともいえます(ただし、Nゲージのような小さい模型ではありません)。
 イギリスは鉄道発祥の地なので、古い鉄道を保存した「ガーデン・レイルウェイ」が盛んです。「ガーデン」とは、日本でいう住宅の「庭」ではなく、貴族の館の「庭園」でもあったのです。公園ともいえる広大なガーデンも含め、プライベートな場所(私有地)に、鉄道の線路を敷いて、本物の機関車に列車を引かせています。走る状態で保存をすること(動態保存)が基本です。もちろん、一般公開されていますから、誰でも乗ることができます。
 ミニチュアの鉄道を庭園で走らせる「ガーデン・レイルウェイ」も沢山あります。これらは、屋外で鉄道模型を楽しむ趣味のことです。線路は外に敷いたままで、いつでも鉄道模型を走らせて楽しむことができます。部屋の中より外の方が広いという事情は、どこの国でも同じでしょう。
 屋外ですから、雨が降っているときは遊べないかもしれません。夏は暑いし、冬は寒いわけですが、夏ならば夕方や夜に遊べます。ライトアップすれば、本物の夜景を楽しめます。また、季節によって周囲の景色が(自動的に?)変わります。雪が降ったらラッセル車を走らせるなど、逆に自然と親しむ楽しみ方ができます。
 僕(森博嗣といいます)は、小学生のときから鉄道模型を楽しんできました。きっかけは、小学4年生のときに買ってもらった「子供の科学」でした。以来、51年になりますが、今でも毎月「子供の科学」を読んでいます。大学生くらいまでは、普通にHOゲージで工作を楽しんできましたが、その後ラジコン飛行機に少し浮気をして、40代になってから、この庭園鉄道を始めました。もう20年ほど、自分の庭を走る鉄道で遊んでいます。
 さて、ミニチュア(模型の)庭園鉄道には、大きく分けて2種類あります。1つは、比較的小さいもの。小さいといっても、Nゲージの5倍くらい大きさです。ある程度大きくないと、屋外に敷きっ放しの線路を走らせるのに不都合(線路が汚れたり、異物があったり)が生じやすいからです。
 もう1つは、さらに大きくて、実際に人が乗れるサイズのものです。このサイズになると、実物の1/4~1/12のスケールにもなり、機関車は重くて持ち上がらないほどです。そのかわり、何人も人を乗せた車両を引いて走ることができます。
 僕は、そのどちらも楽しんでいますが、力を入れているのは、人が乗れる方の鉄道です。線路の2本のレールの間隔は約13センチで、これは5インチゲージと呼ばれている世界規格です。
 5インチゲージを選んだ理由は、できるだけ大きい方が作りやすいし、人が乗ったときに安定しているけれど、これ以上大きくなると、機関車を持ち上げることができなくなってしまう、そんな限界のサイズだったからです。5インチゲージなら、脱線したときに、自分一人で「よっこいしょ」と直すことができます。
 今回、「子供の科学」の編集部からお誘いがあり、僕の庭園鉄道について、紹介することになりました。ほとんど毎日乗っています。現在、線路の総延長は約600メートルにも達していますが、今も未完成の部分があり、少しずつ工事を進めています。
 長い年月をかけて建設してきたものです。個人の庭園鉄道ですから、僕一人でなにもかもしなければなりません。
 僕の庭園鉄道は「欠伸軽便鉄道」という名称です。僕が社長です。技術者も運転士も工事監督も労働者もすべて僕一人だけ。ときどきお客さんが乗りにきますけれど、普段は僕と犬しか乗車しません。
 これから、欠伸軽便鉄道の車両や施設の現状、日々の活動の報告をしつつ、皆さんにも簡単に作れそうな工作物などを、次巻以降でご紹介していきたいと思っています。
 庭園鉄道は、非常に広い範囲の活動となります。工作も、木工、金属加工、電子工作など多分野に及びますし、ガーデ二ングや土木工事も関係します。つまりは、鉄道会社自体を模型化しているような趣味といえます。
 欠伸軽便の場合、模型といっても、実物を縮小したスケールモデルではありません。私鉄ですから、オリジナルであることが大切で、どこにもないデザインの車両を作るようにしています。小さくても「自分の世界を作ること」が一番の目的です。


庭園鉄道の面白い点
1)建設工事や運行そのものがミニチュアである。
2)自然の中で工夫をすること。
3)大部分がオリジナル(独自のもの)。
4)長く(一生?)楽しめる。

庭園鉄道の大変な点
1)扱うものが大きいし重い。
2)いくらやってもきりがない。
3)すべてが自然との戦い。

欠伸軽便鉄道の部局紹介
1)車両製作部
 新しい車両の設計・製作
 車両の維持管理・修理・改良
 小さい機関車による実験・研究
★機関車には、電気機関車(バッテリィ搭載)、ディーゼル機関車(ガソリンエンジンで駆動、あるいは発電)、蒸気機関車(石炭を燃やして走る)、ジェットエンジン機関車(燃料は灯油)、人力機関車、などが在籍。現在34号機まで作られています。また、ジャイロモノレールの開発を行っています。

2)運行サービス部
 日々の鉄道の運行
 ゲストへの案内・指導
 デモンストレーション
 レポートと動画の公開
★森の中に線路があるので、運行しないとたちまち枯葉、枯枝、草などに線路が埋もれてしまいます。なるべく毎日走って、線路の状態を確認をします。ゲストがいらっしゃったときには、乗ってもらったり、運転をしてもらうこともあります。

3)建設作業部
 路肩の土木工事
 橋梁建設
 トンネル工事
 信号機などの地下配線、基礎工事
 沿線の植栽
★主に、スコップを持って行う作業。線路を敷くためには、平らな土地が必要ですから、高いところ削り、低いところは土を盛ります。

4)線路管理部
 線路の延長工事
 既設線路の保全
★線路をどこへ伸ばすかを考えます。土地の測量などをして、計画を立てます。また、既に敷かれた線路に異状がないかチェックし、補修を行います。

5)システム部
 信号機の製作
 踏切の製作
 標識の設置
 各種測定
★信号機は、複数の列車が運行するときに稼働します。ゲストに運転をしてもらう機会があるので、標識なども必要となります。動画などを撮り、問題点を見つけたりします。

6)観光施設部
 沿線建築物の製作
 アミューズメントの製作
 オーナメントの設置
★ミニチュアの建築物を作っています。ブランコなどの遊具も作ります。鉄道に乗ることが楽しくなるように考えます。

6)広報部
 カタログの製作
 記念切符やグッズの製作
 発行物の企画
 HPでのレポート
★一般公開しているのはネット上だけですが、報告やグッズ製作をします。過去には、イベントに参加したり、講演会を行ったりしました。

7)航空部
 庭園内の空撮
 ジェットエンジン等の研究
 エンジンのメンテナンス
★ときどき、ラジコン飛行機を飛ばします。ドローンで上空から撮影をしたりもします。ジェットエンジン機関車は、航空部からのアイデアで実現しました。

欠伸軽便のレポートのページ。http://www.ne.jp/asahi/beat/non/loco/loco00.html
欠伸軽便のブログのページ http://akubilr.asablo.jp/blog/
欠伸軽便の動画のページ https://www.youtube.com/user/AkubiLR

写真1:運転を楽しむゲスト
庭園は深い森の中にあり、樹の高さは30m(6階建てのビル)ほどもある。ここは夏でも最高気温は25℃程度で雨も比較的少ない。ほぼ毎日運行することができる。

写真2:9号機プリウスとナベトロ列車
欠伸軽便鉄道は短い機関車や車両が多く、小回りが利くので、比較的急カーブの線路を通過できる。

写真3
右奥に写っているのはカフェ&ショップ。これは子供用のキッズハウスだが大人も中に入ることができる。

写真4:ロータリィ除雪車
冬は氷点下10℃くらいだが、雪は滅多に降らない。この写真のロータリィ除雪車は、ボール紙製のロータを回すだけのダミィ。実際に稼働する除雪車もある。

写真5:主力の電気機関車たち
左が12号機と2号機の重連、右が33号機。いずれも、ボディはボール紙や角材などで製作。機関車の中では、電気機関車が最も力が強い。特に客車を引くときに活躍する。また、誰でも簡単に運転ができるので、短時間の指導で、ゲスト自身に運転してもらうこともできる。

図1:欠伸軽便鉄道の全景
5インチゲージのメインラインは、1周が約540mのエンドレスになっている。列車は時速2kmほどで運行するので、15分ほどかけて1周する。運転士と乗客の大人3人を乗せた車両を引いて走るため、線路の最大勾配は3%とし、カーブの最小半径は4mとしている。同時に多数の列車が運行する場合は、全線に14基設置された信号機が稼働し、列車どうしが接近しないように制御する。

図2(上):大きい車両と小さい車両
大きいサイズの車両は、実物の1/6〜1/4程度を想定して作られている。機関車だけでも、既に34機が在籍。電気、ディーゼル、蒸気などさまざま。小さいサイズの車両は、1/20〜1/12スケールのものが多い。小さくても蒸気の力で走る機関車が多く、300機以上が在籍。燃料は、アルコール、ブタンガス、石炭など。

図3(下):各種の機関車
蒸気機関車:石炭を燃やして蒸気を作り、その力で走る。
ディーゼル機関車:電気機関車と同様にモータで走るものと、ガソリンエンジンで走るものがある。また、ガソリンエンジンで発電しモータで走るハイブリッドもある。
電気機関車:充電式バッテリィとモータで走行。
ジェットエンジン機関車:模型飛行機用のジェットエンジンを噴射して走る。燃料は灯油。
人力機関車:自転車の部品を使って製作したもの。
ジャイロモノレール:レールを1本だけ使い、自動でバランスを取って走る不思議な車両。

コメント

_ をかへま ― 2023年07月16日 06:53

> 大部分がオリジナル(独自のもの)。

を読んで、これこそがまさにこないだ教わった
「ピカソ」を森さんが造られた時にはあのオリジナルに
なるのだなあ、と今理解できます。

_ 香 ― 2023年07月16日 07:49

第1回公開ありがとうございます。

_ 白犬捜査官 ― 2023年07月16日 08:04

ラフ絵を楽しみにしていました。色を添える前でも、とても可愛らしいイラストです。

_ ぶひごえもん ― 2023年07月16日 08:23

4年前に読んだ時の気持ちが呼び起こされました。下絵を見れるのがとても嬉しいです。今後の公開を楽しみにしています。ご無理のない程度に頑張ってください。

_ Yoko ― 2023年07月16日 08:52

純粋に自分の楽しみに没頭する生活はとても魅力的です。

_ 机上電車製作所 ― 2023年07月16日 08:57

路線図と車両のスケールのイラスト、初めてオリジナルのイラストを拝見しました。
イラストの雰囲気がとても素敵です。
木造橋のショートカットコースやリバース線、採石場など、動画で走っている線路が出てきて、
改めて見てみると発見が多く、見入ってしまいました。
庭園鉄道は「すべてが自然との戦い。」大きく納得です!

_ レミング ― 2023年07月16日 09:08

とてもわくわくする文章でした。
しんどい面もありながら楽しい庭園鉄道。それを構築して維持して発展させるための部局の数々。
これからのブログへの掲載も楽しみにしています。

_ くっきもんちゃん ― 2023年07月16日 09:19

駅長たちがオリジナルにいなかったのは、ちょっと意外でした。

_ クロエ ― 2023年07月16日 09:35

動力源(特に電気機関車)が疑問だったので最後の各種の機関車の説明で合点がいきました。そんな杜撰なはずないと思いつつも本当に一周できるかハウスからスタートして指で路線をたどってしまいました。路線図だけでもとても面白いです。

_ なびえすとーくす ― 2023年07月16日 10:22

いよいよ公開が始まりましたね。オリジナルのイラストがどことなくほのぼのしていて、良いですね。

_ KATO Masaya ― 2023年07月16日 11:29

柔らかいながらも凛とした内容で続きも楽しみになりました。

_ 光野水人 ― 2023年07月16日 11:47

連載第一回、楽しく拝見致しました。
イラストの原案、このままでも雑誌に載せられそうな完成度ですね。
線路の交差は、意図的なものなのか、偶発的なものなのか…。
電気機関車のパワーがもっとも強いというのが意外で、なるほど、ジェットエンジンは噴射して走る仕組みなのですね。

_ TAKAHASHI Isamu ― 2023年07月16日 15:11

文章を読んでいると楽しそうで自分でもやってみたくなりますね。
欠伸軽便鉄道の部局紹介…すごいしっかりしている…(^ω^)

_ カル ― 2023年07月16日 16:43

頻繁にこのブログを拝見させていただいていましたが初コメントです。
こうして欠伸軽便鉄道通信を読むことができること、イラストが見られることが嬉しくてたまりません。
次回も楽しみにしています。

_ ネム ― 2023年07月16日 20:46

最初に連載が始まった時の、ワクワク感を
思い出しました。

_ ミホ ― 2023年07月16日 21:47

素敵なイラストを公開して頂きありがとうございます。

これからも楽しみにしております!

_ シビル ― 2023年07月16日 21:48

森博嗣先生のMORI LOG ACADEMY から「子供の科学」を知り、今では購読もしております。
これからの欠伸軽便鉄道通信も楽しみにしています。
このような機会を作って下さりありがとうございます。

_ のりG ― 2023年07月16日 21:49

レイアウトと機関車のイラストが嬉しいです。

_ モペット ― 2023年07月17日 01:04

校正前の文章及びオリジナルのイラストを拝見する機会に恵まれ、うれしく思います。校正前後の違いを見比べてたのしみました。文章の中では特に、「オリジナルであることが大切で」の箇所に校正後よりも強い印象を受けました

_ もっちー ― 2023年07月17日 02:30

イラストがとても嬉しいです。ワクワクします。

_ サバツ ― 2023年07月17日 09:16

公開ありがとうごさいます!

_ わんこのやま ― 2023年07月17日 11:04

ありがとうございます
懐かしさと共に拝読しました

_ hisa ― 2023年07月17日 11:42

欠伸軽便鉄道の全景、見たかったやつ。。子供の科学、ちゃんと購入して読んだはずなのに、覚えていないなんて。でも、イラストで見られてうれしいです。

_ ゼラニウム ― 2023年07月17日 17:34

こちらのポンチ絵が大好きでブログを
拝見するときイメージを膨らませるために
いつもかたわらにあります。

長年の愛読者の社長さまのお話に
小さな読者さんが夢をふくらませて
いるのが想像できます。

_ てでぃ ― 2023年07月17日 22:37

プレゼントが当たるということで初めてコメントしました。先生の文章、写真、イラストを拝見できるのを毎日楽しみにしています。

_ yyyymmdd ― 2023年07月18日 10:56

はじめてコメントします。
森さんの下描き、拝見できるのをとても楽しみにしていました。
挫折してばかりの自分の趣味も、「小さくても「自分の世界を作ること」という言葉を頼りに、コツコツと継続していこうと思います。

_ しんり ― 2023年07月18日 13:09

全景図のイラストは、まるで冒険物やファンタジーの本の見返しにある、物語の舞台の地図のように見えました。
これだけで、もうワクワクするような。
子供の科学に掲載されたイラストと見比べてみると、特に手書きの文字や樹々の感じがそうさせているのかな、と思いました。
どこかに、財宝の在り処もこっそり描かれていてもおかしくないくらいです(笑)
そして、こちらは空想の物語の世界ではなく、現実に作り出した、しかも日常の生活をされている場所でもあるということに、改めて凄みを感じます。

_ saya ― 2023年07月18日 15:43

手書きの文字が良いです!!

_ くつしたねこ ― 2023年07月19日 23:07

嬉しいです。連載開始のお知らせを聞いた時の高揚感を思い出しました。
庭園鉄道については理解しきれていないものの、近所に10%傾斜の急な坂道を見て、これが3%なら…と想像するようになりました。
楽しみにしています。

_ つつが ― 2023年07月20日 19:25

この第1回目、本当にうれしくて永久保存しております(もちろん、他の号もですが)
改めて、懐かしいです。

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