欠伸軽便鉄道通信292024年08月11日 06:00

最も間単なスチームエンジン(連載第29回)

 「首振りエンジン」をご存知でしょうか? 「いやいや」をしたり、なにかを拒絶するエンジンというわけではなく、これは「オシレーチングエンジン」の日本語訳。「oscillate」とは「振り子のように振動する」との意味です。
 エンジンを自作するには、精密工作ができる機器が必要です。たとえば、ガソリンエンジンや、ジェットエンジンなどを自作することは非常に難しいといえます。でも、スチームエンジンならば、比較的簡単に作ることができ、そのなかでも、オシレーチングエンジンは最も手軽に製作できます。僕が子供の頃の工作関係の雑誌には、たびたび作り方が掲載され、実際に小学生でも作った人が大勢いたはずです(僕は中学生になってからでしたが)。
 実際には、金属を切るための金鋸、削るためのヤスリ、穴を開けるドリルなどの工具が必要で、ハンダづけができることも条件となります。スチームエンジンの製作が容易なのは、それだけ昔、つまり高い技術力がなかった時代に生まれたものだからです(図1)。
 水を火で熱して蒸気を作る容器がボイラです。この蒸気をエンジンのシリンダへ送り込み、その圧力でピストンを押します。押したらすぐさま、その高圧蒸気をシリンダから抜きます。これをタイミング良く繰り返すため、シリンダへの入口と出口を切り換えます。普通のスチームエンジンでは、これを行う専用のバルブが付属しています(連載第11回参照)。
 一方、オシレーチングエンジンは、このバルブの代わりに、シリンダ自体が動き(首を振り)、入口と出口の穴がある場所を往復して切り換えます(図2)。非常に簡単な機構なので、模型のサイズでは多くの製品がこの方式を採用しています(写真1~4)。ただ、パワーアップのためにエンジンを大きくすると、首振りによる振動が問題になり、シリンダの支持や密閉も難しくなります。人を乗せるサイズの機関車では、オシレーチングエンジンが使われることはまずありません(例外はわずか)。つまり、オシレーチングエンジンは、模型やおもちゃ専用のエンジンなのです(写真5~7)。
 このエンジンを動かすには、ボイラが必要です(図3)。しかし、火を使うボイラはハンダづけでは作れません。ボイラの代わりに、高圧空気を作るコンプレッサがあれば、オシレーチングエンジンを回して遊ぶことができます。一番手近にあるコンプレッサといえば、血圧計でしょうか。家にある血圧計の液晶モニタが壊れたら、捨てずにもらっておきましょう。血圧計の小さなコンプレッサでオシレーチングエンジンを回して走る機関車が作れます(欠伸軽便のサイトの動画をご覧下さい)。

写真1 一般的なオシレーチングエンジン: 単気筒のシンプルなものは、完成品も数千円で市販されている。

 写真2 2気筒直列オシレーチングエンジン: 蒸気圧がピストンの押し引き両方を行う「複動」の2気筒のエンジン。これも製品だが少々高価。

写真3 2気筒V型オシレーチングエンジン: 2つのシリンダを直角に配置したもの。このエンジンも押し引きの複動。

写真4 ボイラも含めた蒸気機関の模型: エンジンへ蒸気を送るボイラ(中央)とアルコールタンク(左)。ボイラの下で火を燃やす。

写真5 オシレーチングエンジンの機関車: 45mmゲージの自作品。燃料はアルコール。中央下のエンジンが動輪を直接回す。

写真6 オシレーチングエンジンの自動車: V型2気筒エンジンを車体前部に搭載し、アルコールで走る三輪スポーツカーの模型。

写真7 オシレーチングエンジンのシェイ型機関車: 2気筒直列エンジンを搭載した32mmゲージの自作品。燃料はブタンガス。

図1 オシレーチングエンジン: シリンダは金属パイプ(1cm径くらい)。金属を切ったり削ったりして製作する。シリンダの蓋や、パイプなどはハンダづけが必要。蒸気が漏れないように作れるかが勝負。
図2 オシレーチングエンジンの仕組み:ピストンを押すときだけ蒸気の圧力を使う単動の場合。1回転につき1回蒸気を送り込み、ピストンを押す。シリンダの下側も蓋で閉じ、ピストンを引くときも圧力を使う「複動」タイプもあるが、工作が難しくなる。
図3 エンジンに蒸気を送り込むボイラや、アルコールのバーナーは、火を使うため、ハンダづけでは壊れてしまう。このため銀ローづけという工法が必要になり製作は難しい。蒸気機関は、エンジンの外で燃料を燃やすので、「外燃機関」と呼ばれる。

One truck Shay2024年08月11日 06:02